ーーーーーーミーン。ミーン。

けたたましいせみの合唱とともに、私はうっすら目を開けた。私の視界が、ゆっくりと明るくなる。

「ここは………?」

かすかな頭痛を感じながら、私は辺りを見回した。

見慣れた1LDKのアパートの一室が、私のぼやけた視界に映った。

「……戻った?」

私は、目をパチパチとして自分のせまい部屋を確認した。

開いてる窓から照りつけるような陽射しが私の白い肌を焼きつけ、せみの合唱が夏の暑さを象徴している。

「戻れたのかな?」

ほんとうに母親が死ぬ前の日に戻れているのか、不安になった私。

母親が亡くなったのも夏だし、今の季節も夏だ。完全に戻れたという証拠はなく、私は不安になった。

そのとき、私の鼻腔をくすぐるいい匂いがした。

私はその匂いにそそがれ、そっちに視線を向けた。視線の数メートル先に、私が作った記憶のある朝食が目に映った。

おわんにそそがれた温かいみそ汁。お茶碗によそわれている、白いご飯。マグカップにそそがれた、冷えた牛乳。

「戻ったんだぁ」

自分の作った朝食を見て、私の母親が死ぬ前の日に戻ったことを実感した。それは、優太とデートする前の日に戻っていたことを意味していた。