「死ぬ前の日に戻って、最後にお母さんに会うの。それが、私の優しさだよ」

私は、神様に諭すように言った。

「大好きな人とのデートを断ってでも、お前はそれが優しいと思うのか?」

神様は眉を寄せて、低い声で私に訊ねた。

「うん。それが、私の優しさだよ。優太とは生きてる間デートできるし、優太だって私と同じ選択するはずだから」

私は、はっきりと言った。

タイムリープする前に優太と電話したおかげか、彼が私の気持ちをわかってくれることを信じていた。

「神様にだって、やさしい感情はあるでしょ?」

そう言って私は、神様に指差して訊ねた。

「ざんねんだが、そんな感情はない」

「へぇ?」

神様の口から発せられた言葉を聞いて、私は目を丸くして驚いた。

「私は、ひとりでずっとこの世界から、お前ら住んでる人間界を見下ろしているんだ。他者との関わりのない私には、そんな感情はない」

ぶるぶると首を振って言った神様の口調は、冷たかった。

「そうなんだ」

そう言いながら、私は辺りを見渡した。辺りを見渡しても人の気配は感じられず、琥珀色の世界がどこまでも広がっていた。

人と人と関わりが持つから、そこに感情が生まれる。この世界でずっとひとりで生きてる神様は、感情がないこともなんとなく理解できた。