出来損ないの過去

「やっぱり避けてますよね。」


「そうだな。」



あの日以来、威叉奈は棟郷をあからさまに避けていた。


ただし、元々捜査以外に接点を持とうとしなければ関わり合いの無い2人。

変化に気付いているのは、賭狗膳と早乙女だけだった。



「棟郷さん何とかして下さいよ。吹蜂さん、私達にまでかなり取り繕ってますし。」


「俺じゃ無理だ。」


「何でですか?吹蜂さんの親代わりでしょ。いつも言ってるじゃないですか!」



俺は威叉奈の親代わりだ。

何か揉め事や心配事があれば、そう賭狗膳は口にする。


威叉奈もそれを分かって、賭狗膳には素直だ。


しかし、今回は賭狗膳が問い掛けても、何も無い。と複雑に笑うだけだった。



「それはそうだが。昔、あいつが心を開くまでかなりかかったんだ。それに、今まで泣いたとこなんて、見たことねぇし。あいつの心はまだ……」


「……まだ?」



賭狗膳の脳裏には、出会った頃の威叉奈が浮かんでいた。

15年前―――





「あ゛ー疲れた。」



早朝から暴力団のフロント企業にガサ入れをして、数日。


長期の内偵からやっと解放された賭狗膳は、愛する妻、苗込の待つ家へと帰る途中だ。



「なんだ、あれ?」



横にある公園の茂みで、何やら揉める声が聞こえてきた。



「んだよ、これだけか。しけてんな。」


「ひっ!ゆ、許し、てくだ…さい……もっ、これ以上はなにも……」



「お前、そこで何してる?」



「あ゛?」



「た、助けてくださいっ…!」



すがる様な目を向け助けを求めているのは、50代ぐらいのサラリーマン。


男物の財布を持ち、ガンを飛ばしているのは、制服を着崩した10代の女の子――威叉奈だった。



「はぁ……カツアゲかよ。ここはいいから、あんた早く逃げな。」



促されたサラリーマンは、足を縺れさせながら逃げて行った。



「なんだ、おっさん。なんか用かよ?文句でもあんのか?」


「ありまくりだな。俺はこういうもんだからな。」



そう言いながら、賭狗膳は警察手帳を見せた。



「ちっ、サツかよ。」

「お前、中学生だろ?学校はどうした?」



今は平日の昼過ぎ。


中学生がいていい時間ではない。



「………………。」


「って、おい!無視すんな!」



賭狗膳を一睨みした後、威叉奈は無言で背を向け歩き出した。



「ったく、何なんだあいつは。」



威勢よく向かってくる半グレとは違い、睨んできた目はともかく言葉と雰囲気は淡々としていた。


そんな威叉奈に、賭狗膳は気にはなったものの、管轄違いと疲れの為、追うこともせずその場を離れた。



「へ~、珍しいわね。普通なら殴りかかって来そうなものだけど。」


「ああ。なんか妙に冷静というか、冷めてるというか。変な奴だったよ。」



家に帰った賭狗膳は、苗込の手料理を食べながら、先程出会った変な奴――威叉奈のことを話していた。



「でも、その制服ならこの近くよね。親御さんは知っているのかしら。次見かけたら、話してみてよ。気になるし。」


「ああ。管轄外だから少年課に聞いてみる。俺もあの目、気になるしな。」


「お願い。」



賭狗膳の職業柄と子供がいないのが相まって、2人はそういうのが気になる質だった。

「駁兜?」


「グループの名前ですよ。」



数日後、担当事件が落ち着いたので賭狗膳は少年課へと赴いていた。


担当者が言うには、あの少女は駁兜(ハクト)という不良グループに所属しているようだ。



「賭狗膳さんが会ったその少女は、吹蜂威叉奈ですね。強い・非道・冷酷。反抗や意見はしないらしいですが、一匹狼の異質の存在で総長のお気に入り。それが原因で内部分裂してるみたいですが。」



「そんなに強いのか?」


「ええ。かなりのグループを壊滅や再起不能に追い込んでいます。」



威叉奈の強さは群を抜いているようだ。



「そんだけやってたら、何かしら対処してんだろ?」


「補導は何回もしてますよ。ただ、不良同士でお互い様な部分がありますからね。」



口頭での厳重注意が関の山らしい。



「親は何やってんだよ。娘が警察の世話になってんのに。」


「吹蜂威叉奈は親と死別しているようですよ。」


「死別?」



「ええ。身元引き受けに来た親戚の方が言っていましたから。」



担当者の目に浮かんだのは、迷惑そうに対応する親戚の姿だった。

「このくそガキが!いい気になってんじゃねーよ!」


「うっぜーんだよ!」



威叉奈は絡まれていた。



毎日毎日。


入れ替わり立ち替わり。



敵対する族が。


年上の不良が。


いい年をしたチンピラが。


同じ族の一部が。



その度に威叉奈は、売られた喧嘩を買っていた。


時にはカツアゲや公共の物を壊したりと、自らも手を出して。



「よくやるよなぁ、あいつらもさ。威叉奈に勝てる訳ねぇのに。」


「……どっから湧いて出た。」



一喧嘩終えた威叉奈が鬱陶しそうに睨んだのは、威叉奈と同じく駁兜に属する不良、秩浦椒鰲(チチウラ ショウゴ)だった。



「湧いて出たは失礼じゃね?俺、ゴキブリか何かか?」


「それはゴキブリに失礼だろうが。」



「…………。俺の存在価値は何なんだ。」


「知るか。」



椒鰲は軽くショックを受けているようだが、かなりどうでもいい。とでも言いたげに、威叉奈は答えた。



威叉奈と椒鰲は同い年だが、学校が違う為、知り合ったのは駁兜に入ってから。


何かと喧嘩以外で絡んでくる椒鰲が、威叉奈は鬱陶しいことこの上なかった。

「あ、そうそう。総長が言ってたぜ?サツが威叉奈のこと嗅ぎ回ってるってさ。しかもマル暴担当が。何かやったのかよ?」


「………知らねー。」



十中八九あん時のサツだな。と威叉奈は思った。


カツアゲをしてたのにも関わらず、追い掛けても来なかった、あの変な警察官のことを。



「つか、邪魔ならシメりゃいいじゃねぇか。」


「シメるんじゃねーよ。総長、心配してんだぜ?威叉奈は自己流直そうともしねぇからさ。いつかマジでパクられるか殺っちまうって。」



威叉奈の喧嘩の仕方は、喧嘩というより痛めつけるといった方が正しかった。


手を出す人間を間違えない自制心はあるが、破壊的行動はかなり強い。


一歩間違えれば、という諸刃の剣だ。



「パクられねーし、殺らねーよ。俺は殺人鬼じゃねぇ。」


「ならいいけどな。殺人なんて外道、族に傷が付く。」



「俺が嫌なら総長に言え。あの人が俺を繋いでんだ。」



「嫌じゃねぇよ。」


「どうだかな。……まあ、どうでもいい。」



心底どうでもいい。他人なんて関係ない。


威叉奈はずっとそう思っている。

「あ!」


「は?」



椒鰲と別れて歩いていると、威叉奈は嬉しそうに近付いてくる賭狗膳に出会った。



「やっと会えた!かなり探したんだぞ。たむろ場所ぐらい作れ。」


「………………。」


「ちょ!待て、待て待て。」


踵を返す威叉奈に、行き道を塞ぐように賭狗膳は回り込む。



「パクりにでも来たのかよ。」



「課が違げーよ。」


「じゃマル暴が何の用だ。俺のこと嗅ぎ回ってんの、おっさんだろ?」



「んだよ、分かってんなら会いに来いよー。」



残念そうな言い種だが、顔は完全に拗ねていた。



「わざわざ、サツに会いに行くほど馬鹿じゃねぇ。」



「そうかよ。な、腹減ってねーか?嫁の料理、美味いんだ。」


「いらね。目障り、イラつく、視界から消えろ。」


「ひっでー言い様。」



暴言を吐き捨て、威叉奈は立ち去った。



「まずまず…か。」



最初に会った時より、会話が出来た。一歩前進したと賭狗膳は思う。



しかし、やはり半グレやそこいらの不良とは何かが違う。

賭狗膳は世間や大人に対しての反抗心が、威叉奈からは感じ取れないでいた。

「よ!」



「調子はどうだ?」




「怪我してんじゃねーか。見せてみろ。」



「これが嫁の料理だ。美味いぞ。」


「今の中学生はどんな勉強してんだよ?」




「今日、ガサ入れしたんだ。ああ、ガサ入れつーのはな…」


「子供って可愛いよな。俺らには出来なかったからさ、余計になぁ。」



「寒くねぇか?カイロあるぞ?」


「暑いだろ?ほれ、アイス。」



「課長が煩くってよー」



「警察って、派手なイメージあるがよ、結構デスクワークなんだぜ?」





「苗込と喧嘩しちまったーどうしよう…」


「俺の同期にさ、棟郷っていうのがいるんだけど、そいつが頭でっかちでな。」



賭狗膳は時間を見付けては、威叉奈を探して話し掛け続けていた。


最初は暴言を吐いてすぐに立ち去っていた威叉奈だったが、諦めたのか呆れたのか、段々暴言の数も減り、いつしか賭狗膳が話を切り上げるまでそこにいるようになった。


暴言代わりに、無言ではあったが。



賭狗膳そんな威叉奈の態度が嬉しく、また楽しかった。



出会ってから1年。


そんな生活が続いていた。

「あいつ、どこ行ったんだ?」



いつものように威叉奈を探していた賭狗膳だったが、今日は何故か見付からない。



威叉奈が立ち寄りそうな所は全て回った。



必ずといっていいほど、そのどこかに威叉奈はいたのに。


今日は居ない。



賭狗膳が見付けやすいようにか、新しい場所には賭狗膳と会ってから威叉奈は赴いていたのに。


今日は居ない。



「どこだよ!!」



嫌な予感がする。



1年前なら、こんなことは思わなかったはずだ。


フラフラと、威叉奈はたむろ場所を持たなかったから。



けれど、今は威叉奈は自分を待っていてくれていると感じていた。


信じたかった。


信じていたかった。



一方的に話しているだけだけど。


会話が成立したことなんて数える程度だけど。




威叉奈は、自分の意思で賭狗膳と居ると。



「……居た。威叉奈っ!」



反対側の歩道に、見慣れた背中があった。



「探したぞ、いつもの場所にいないから。お前、どうし………」



振り向いた威叉奈の姿に、賭狗膳は言葉を失った。

「どうした、これ?誰にやられた?!」



賭狗膳が見た威叉奈は、今までに見たことがないぐらいボロボロだった。



制服は引き裂かれ、切り傷、打撲傷、煙草なのか火傷の痕……



完全にリンチの痕だ。



「…………べ、つに。」



口の端も切れていて、かなり喋りにくそうだ。



「俺の家に来い。とりあえず手当てだ。」



フラついてされるがままの威叉奈に、ジャケットを着せて家へと連れ帰った。



「ちょっと、どうしたの?!」


「おお。丁度良かった。とりあえず、手当てしてくれ。」


「分かったわ。」



賭狗膳が家に帰ると苗込がいた。


苗込の仕事はフリーライター。

この間まで色々取材して、今日はたまたま家で原稿を書いていたのだった。



「はい、これでいいわ。傷口が塞がるまではあまり動かないようにね。」



いきなり現れた威叉奈に驚いたものの、苗込は手際良く手当てをしていく。

消毒と包帯がされ、賭狗膳は少し安心する。


痛々しい見た目には変わりないが。

「な。どうしたよ、これ。誰にやられたんだ?敵対の族か?チンピラか?それとも……駁兜の連中か?」



駁兜、その名前を言った瞬間、威叉奈が少しだけ反応する。


賭狗膳はそれを見逃さなかった。



「内部抗争か……。かなり揉めてんだろ?なんで離れねぇ?」



心を開いてもらう為に、これまで威叉奈と話したのは世間話か自分の仕事のことぐらい。


賭狗膳は出会ってから初めて、威叉奈に疑問をぶつけた。



「総長に気に入られてるからか?けどよ、総長が内部抗争に気付いてない訳ねぇよな。お気に入りがこんな目にあっても知らん顔か?」



賭狗膳は、総長は族を統制し守るものだと思っていた。

それがたとえ、世間からつま弾きな集団だとしても、その辺は筋が通っているものだと。



「トクさん、それじゃ尋問と変わらないわよ。威叉奈ちゃんよね?今日はウチで夕御飯食べていきなさい。ねっ!」



ご馳走作るわよ~。と張り切っている苗込に、はしゃぎ過ぎだ。と賭狗膳は呆れる。



しかし、食事が終わるまで威叉奈は終始無言だった。


無視というよりは、ボーッとしている感じだったのだが。

「ご馳走様。」


「はーい、お粗末様。」



苗込が張り切った為かなりの量だったが、仕事帰りの賭狗膳とお腹が空いていたのだろう威叉奈とでほぼ食べてしまった。



「美味かったろ?苗込の料理は世界一だからな。」


「あらやだ。褒めたってなんにも出ないわよ、トクさん。」



満更でもないらしい。

苗込の顔は嬉しそうだ。



「なんで、トクさんなんだ?」


「ん?ああ、呼び方?」



夫婦なのに、さん付けなのが気になって、威叉奈はここに来て初めて口を開く。



「この人、下の名前が梅夫っていうんだけどね、そう呼ばれるのが嫌なんだって。小さい頃、梅干しって、からかわれたから。」


「苗込!余計なこと、言うんじゃねぇよ。」



背が低く、丸顔だったのも相まって、あだ名が梅干しだった。

それが子供心に嫌で嫌で仕方がなかったのだ。



「梅干し……。確かに変な名前。」


「!……やっと笑ったな。」



余程可笑しかったのか、威叉奈は賭狗膳と出会ってから初めて笑った。

「…………。変な奴だよな、あんたって。」


「あ?何でだよ。」


「俺みたいなのに話し掛けるし、家にまで……」



お人好しとでも言いたそうだ。



「別にボランティアとか世話好きとかじゃねぇよ。俺達には子供が出来ないんだ。2人とも昔の病気でな。だから、なんつーか、ほっとけねぇんだよ。それに、初めて会った時のお前の目も気になったしな。」


「目?」



「ああ。なんか冷めてるっていうか、感情がないっていうか、人生に絶望してる感じ?そういう風に見えてな。」



「…………。」


冷めてたり感情がないのは、自覚している。


ただ、人生には絶望などしていない。



「絶望なんかしてねぇ。する必要もねぇ。最初からそうなんだからよ…。」


「最初……。そういやお前、親戚と住んでんだろ?身元引き受け人がそうだし、少年課からは両親とは死別って聞いたし。」


「ちょっと、トクさん!いきなり、無神経じゃないの!」


「……あ、悪い。つい…」



威叉奈のことが心配のあまり、賭狗膳はかなり踏み込んだことを聞いてしまっていた。

「小学校の入学式から帰ってきたら、リビングで母親が首吊ってた。寝室に行ったら、父親が包丁で胸刺して血まみれだった。」



父親と母親は不仲だった。本人達すら原因が分からないほどに。


顔を合わせれば、無視か言い合い。発端はいつも些細なこと。


次の日、学校に来ない威叉奈を心配した担任が訪れるまで、威叉奈はリビングと寝室の間に呆然と座り込んでいた。



争った後は無く、リストラに合い無職だった父親が先に寝室で自殺を図り、寝室の扉は閉まっていた為、母親は気付かずにリビングで首を吊った。


互いが互いを知らずに自殺を図った。それが警察の見解だった。



「だから親戚のとこにいるだけ。」



世間体を気にした親戚が威叉奈を引き取った。

しかし、最低限の生活もみないほど放任されていた。


学校に行かなくても、夜出歩いても、警察に補導されても。



心配も注意も、怒りもしない。

ただ、引き取った。それだけだった。

「総長だって、俺が喧嘩強いから欲しいだけ。次の総長を任せられるのは、族の中で誰よりも強い俺だけだって。」



次期総長の座を、いとも簡単に譲られた威叉奈のことが気に入らなかったらしい。


リンチの原因はこれのようだ。



「んなもん、俺じゃなくてもいいじゃねぇか。俺より強い奴なんていくらでもいるんだ。」



俺じゃなくたって……。



独り言の様に小さく呟いた言葉は、賭狗膳と苗込にはしっかりと届いていた。



「威叉奈ちゃん、今何年生?」


「……3年生。」



今まで口を挟まなかった苗込が突然話し掛けたので、威叉奈は答えるのがワンテンポ遅れる。



「高校は考えてるの?行きたいとことかあるの?」



今の時代、大半は高校へ進学する。

もうすぐそんなことを考えなければならない時期。候補はいくらかあるはずだ。



「いかねぇ。やりたいこともねぇし、卒業したら家出ていかなきゃなんねぇから。そういう約束だし。」



義務教育が終われば放り出すつもりらしい。


まともに授業も受けたことがない威叉奈を。

保護者の義務を果たさないまま。

「じゃあ、卒業したらウチに来ればいいわ!」


「…え?」


「は?お前、サラッと何言ってんだよ?!」



良いアイデアを思い付いた、とばかりに苗込は言う。


漫画ならば頭の横に豆電球が光りそうな感じで。



「あら、いいじゃない。子供欲しかったし。トクさんだってそうでしょ?」


「そりゃそうだけど。欲しいからってそんな簡単に…」


「ねえ、どうかしら?別に養子とかじゃなくて……あ、言葉難しいかな?つまり、卒業したら帰る家が親戚の家じゃなくて、ウチになるってこと。それだけよ。」



賭狗膳の言葉を遮って、ウキウキして話す苗込に、話の内容をいまいち理解出来ていない威叉奈はキョトンとした表情で、2人を交互に見つめる。



「あのな。一人の人間を引き取るのが、そんな簡単にいくか。それに、威叉奈の気持ちどーすんだよ。置いてきぼりだろうが。」



簡単に言ってくれる。と呆れ、軽くため息を付く賭狗膳。



「…………。やっぱ変な奴だな、あんた。」



俺の心配するなんてさ。



そう、威叉奈は笑った。

「そう、だったんですか……。」



普段の姿からは、全く想像がつかない威叉奈の過去。


自分が知ってもいいことだったのか、と早乙女は思う。



「ああ。今からは想像つかねぇだろ?あれから15年か……」



あれから、威叉奈は高校を受験した。


賭狗膳に意味を見出だしたようで、警察官になって一緒に働きたい、と。



「やれば出来る奴なんだよなぁ。成績良かったしな。」



バイトをすると言った威叉奈をどうにか丸め込み、勉強に集中させたおかげだ。



「俺達が離婚する時だって言い出しにくくて散々悩んだのに、あっさり了承しやがって。」



賭狗膳の仕事が忙しくなり、同時期に取材が立て込んだ苗込とすれ違いが増えた。


ただ、威叉奈は2人にとって子供同然、悩みまくった。


しかし、威叉奈も無事公務員試験に合格し、賭狗膳と一緒に働いていたこともあって、勇気を出して話したのだ。



そうしたら、威叉奈はあっさり言ったのだ。



『2人がそれで幸せならいいよ。血が繋がって無くても家族なら、一緒に住んでなくても家族でしょ。』と。

「家族、ですか…」



「ああ。だから、今度棟郷が何かしたらぜってー許さねぇ。」


「(賭狗膳さん、目が本気だ…)」




心配しているというよりは、子離れ出来ていない父親、と言った方が正しいと早乙女は思った。



「トクさん、握りこぶしなんてどーしたの?」


「吹蜂さん。」



賭狗膳の行動は謎に見えたようで、話し掛けた威叉奈の顔は不思議そうだ。



ブーブー……ブーブー……



「……………。」



威叉奈の携帯のバイブが鳴る。


着信のようだが、表示を見て一瞬嫌な顔をした後、切ってしまった。



「いいの?」


「いいのー。だって今から会議じゃないですかー。」



そう言って早乙女の背中を押しながら、会議室へ向かう威叉奈。



「(あいつ………、まだ…。)」



威叉奈の一瞬を、賭狗膳は見逃さなかった。



あの顔は、過去に見た闇の目。


賭狗膳には見えた気がした。



警察官を目指して、警察官になって、必死に頑張っている威叉奈を縛る過去からの鎖が。







鎖の先には、一体誰がいる…?