「拓ちゃんは?」
「今日は前橋様の仕事だから、朝イチで美容室にブン投げてきた。そっから病院直行」
「婚約者として病室のおじいちゃんの前で幸せイチャイチャする仕事?」
「それそれ」
「俺、そっちの方がよかった」
切実な声が素直に出てしまう。
「拓ちゃんみたいな真面目そうなヤツがいいの。あんたが行くと詐欺」
「俺も真面目キャラがいい」
「いやいや、あんたはうちのトップ。レンタル彼氏的風の、単純な仕事があったはず」
「どうせ普通のレンタル彼氏じゃないんだろ」
「わかる?ホストに入れ込んでるセレブマダム風なデート希望だって」
「……世の中病んでる」
「そのおかげで私たちは生活ができるのです。気乗りしなかったら他に回すから、嫌なら抜けて路頭に迷え!」
「……やる」
「よろしい。コーヒーでも入れてあげるよ」
ご機嫌でコーヒーマシンの元に走る藍里を横目で見ながら、瑛太はクッションを抱き直し考える。
ここは瑛太の職場である古いビルの小さなオフィス。
社員は男性4人プラス社長の藍里。
売れない劇団員がバイト感覚で始めた人材派遣会社。
【あなたの夢をかなえます。
どんなシチュエーションがお好みですか?】
そんなキャッチコピーを看板にして、ただの人材派遣とはちょっと違う面を出すと依頼が続々と舞い込んだから不思議な話である。
依頼をするのはごくごく普通の人が多かった。
今回の瑛太の依頼者も普通のOLだった。
『平凡な日常でよかったと、思わせてほしい』
そんな依頼を受けて、何度も詳しく藍里と連絡を重ねた結果
【悪い男に捕まって身動き取れなくなり、男を殺してしまう】
そんなシチュエーションのプランを用意すると依頼者はノリノリに喜んだ。
怖い……普通のOL怖い。