雨はまだ静かに降り続く。

静まり返った部屋の中で、結衣は呼吸を整えて瑛太を待っていた。
お金を振り込まなかったから必ず瑛太はやってくる。
いつものように勝手に鍵を開けて乱暴に部屋に入り、人の顔を見ず強盗のように部屋をかき回してから、バッグを奪って財布を取り出す。

ループ ループ
無限ループ

いつまでたっても終わらない
自分から終わらせないと
終わらない。

結衣はもう限界だった。

深呼吸をしてソファに深く座り、右手の指先にかかる固いものをクッションの下で握りしめる。
大型量販店で買った出刃包丁がそこにあった。

人を刺す感覚とはどういうものだろう。

ズブズブと刃は入るのだろうか
血はどれくらい飛び散るのだろうか
殺した後はどうすればいいのだろう
そんなことをぼんやりと考えていると日付が変わった。
そしてその時
玄関の扉が開いて瑛太が現れた。

「振り込みされてなかったんですけどぉ」
ふざけた口調とは裏腹に目つきは鋭く、瑛太は結衣の目の前に堂々と現れた。

「カネ……出せや」

凄みのある声を出し
瑛太は結衣にそう言った。

結衣はクッションの下にある包丁を強く握り、うつろな顔で瑛太を見上げた。