ポツリポツリと雨が降る。
アスファルトと同じ色をした空を見上げ、結衣はコートの襟をギュッとつかんだ。
傘を忘れた。
昨夜寝る前に天気予報を確認して玄関ドアに立てかけておいたのに、朝の一番忙しい時間に瑛太から気の滅入る電話が入ったせいだろう。
出勤前の貴重な時間を邪魔されてイラついたのか、話の内容にイラつて傘を忘れたのか自分でもわからない。
『カネ貸して』
一晩中飲んでいたのだろう、ザラついた声が耳に貼り付く。
『振り込む?職場に取りに行く?』
安いバーボンの香りがスマホ越しに漂っている。
「職場は嫌だ」
そんな返事は承諾したと同じ言葉。
『今日中によろしく』
「鍵返して」
『はぁ?』
「私の部屋の鍵返して」
『振り込みよろしくー』
一方的にプツンと切られて会話は終わり、結衣は立ち上がり食べかけのトーストを三角コーナーに放り捨げた。
どうしてこうなったのだろう。