「だから、ないって言ってるのに」
眉をしかめながら、去って行く萌菜の背中に向かって独り言を呟く。
そういえば萌菜以外にも最近、あたしと涼太の関係について、にやにや笑いながらからかってきた人がいた。冴島先生だ。
ドーナツ屋のテーブル席で、あたしと涼太の関係についてからかってきた萌菜の笑みは、冴島先生の笑みと少しだけ似ていたような気がする。
萌菜の笑い方も、冴島先生と同じで、あたしの心の中を全て見透かすようだった。
ふと、あたしの脳裏に、職員室で仲良さそうに談笑していた萌菜と冴島先生の姿が思い浮かぶ。
近い関係にいる人同士は、仕草や考え方が似ると聞く。あたしをからかって、似たような笑みを浮かべていたあのふたりは、噂どおり、付き合っていたのかもしれない。もしかしたら、現在進行形なのかも……
そう思うと、なんだか嫌な気持ちになると同時に、訳もなく胸の奥が鈍く軋んだ。
視線を上げると、ちょうど電車が向かい側のホームに入ってくるところだった。
電車は、どの車両にも人があまり乗っておらず、空いている。そこに乗り込む、萌菜の姿が見えた。