「あ、そろそろ時間だよね」

スマホで時間を確認した萌菜が、机の上に置いたそれをくるりと半回転させてあたしに見せる。

「うん、そうだね」

あたし達はほとんど同時に立ち上がると、殻になったカップとお皿の載ったトレーを片付けて店の外に出た。

「ひさしぶりに紗幸希と話して楽しかった。ありがとね」

駅の改札を抜けたところで、萌菜が顔のそばで小さく手を振る。

「うん、あたしも」

あたしが手を振り返すと、萌菜がふと何か思いついたようににやりと笑った。

「もし何か進展あったら、あたしにちゃんと報告するんだよ」

萌菜は一度言葉を切ると、「涼太と」と小さな声でわざとらしく付け足す。

「だから、何度も言うけどそれはないから」

呆れ顔で言葉を返すと、萌菜はにやけた表情のまま手を振って、向かい側のホームに繋がる階段を駆け下りていった。