職員室を去り際に、そっと冴島先生を盗み見る。けれど彼は仕事に集中していて、あたしが帰ろうとしていることには全く気が付いていなかった。

「あ、終わった?」

職員室の外に出ると、廊下の壁に凭れながらスマホを触っていた萌菜が顔をあげた。

「うん」
「このあと時間ある? よかったら、駅前でちょっと喋っていこうよ」

隣に並んだ萌菜が、にこにこと笑いながら誘いかけてくる。

あたしが時間を気にするように腕時計をちらっと見ると、萌菜が少し残念そうに眉尻を垂れた。

「あ、予備校?」
「うん、でも……一時間弱くらい時間ある」
「ほんと? じゃぁ、ちょっとだけ駅前のドーナツ屋に寄って行こうよ」

あたしを誘いながらにこにこと笑う萌菜は、なんだかやけに嬉しそうに見えた。