萌菜が職員室を去ると、冴島先生は机に広げていたプリント類に視線を落とす。
去っていった彼女のことをさして気に停める様子もなく、自分の仕事に取り掛かり始めた。
ときどき机に片肘をつきながら何か考え込んでいる冴島先生を見ていると、柴崎先生があたしを呼んだ。
「宮坂、ぼーっとしてどうした?」
「あ、すいません」
はっとして柴崎先生のほうに向き直ると、机から紙とシャーペンを取り出した先生がそこに例題となる文章を書きながら英文法の説明を始める。
「ここは────……」
柴崎先生の説明に集中しようと思うのに、あたしは職員室の外で待つ萌菜と、少し向こうで何か考えこみながら仕事をしている冴島先生のことが気になって仕方なかった。
10分ほど柴崎先生の説明を受けたのに、ずっと上の空で聞いていたせいで、わからなかった問題はわからないままだ。
だけど、まさか「聞いていなかった」とは言えないから、なんとなくわかったフリだけをして、あたしのために時間を割いてくれた柴崎先生にお礼を言った。