「そうだね。萌菜は、数学の質問?」

別に探りを入れるつもりなんてなかったのに、気付くとあたしは萌菜にそう訊ねていた。

「うん。今日の数学の夏期講習でやった問題でわかんないとこあったから、冴島先生に聞いてた」
「へぇ、そうなんだ」
「紗幸希もなんか質問? あたし今日急いでないから、よかったら一緒に帰ろうよ。三年になってから全然喋ってないし」

萌菜がそう言って、にこにこ笑う。

萌菜と冴島先生。やけに親しげに話す二人の姿を見てしまったあたしは、彼女の誘いを受けるのが少し気まずかった。

「でも、ちょっと時間かかるかも────」
「いいよ、あたし職員室の外で待ってるし。ゆっくり質問して」

さり気なく断ろうとしたのに、萌菜はそんなあたしの気持ちには気付いてくれない。

「じゃぁ、冴島先生。またわかんないとこあったら教えてください」

萌菜は生徒らしくぺこりと頭をさげると、あたしに軽く手を振って職員室から出て行った。