「宮坂さん。あんまり無理しすぎないでね。涼太や武田さんが言うとおり、たまには息抜きも必要だから。今度時間あるときは、みんなと一緒にアイスでも食いに行こう」

上原くんが柔らかい声音で、さり気なくあたしを誘ってくれる。

上原くんは、他人の小さな心の動きにすぐ気付く人だ。いつも穏やかで柔らかい微笑を浮かべているけれど、実は結構侮れない。

もしかして、あたしが涼太に対して変な意地を張ってるとでも思われたのかな。

そう思うと少し恥ずかしくて、あたしは目を伏せながら上原くんに小さく頷いた。

「じゃぁ、紗幸希。また明日ね」

教室から去って行く亜未と涼太、それから上原くんに手を振ったあと、あたしは机の上の問題集に視線を落とした。

昨日の夜、家でやりかけのまま終わってしまった英文法の問題集。予備校に行くまでには、あと3時間くらいあるから、できる限り多く問題をこなしておきたい。

目を閉じて大きく一つ深呼吸をすると、シャーペンを握りなおして問題に取り掛かった。