冴島大輔は萌菜の話をろくに聞かずに、焼きたてのグラタンをじっと見ていた。
「ねぇ、大ちゃん」
冴島大輔の関心が自分から逸れ始めていることに気付いた萌菜が、彼の腕を強く引っ張る。
「さっき、紗幸希と亜未とも、大ちゃんのことカッコいいって話してたんだよ。ねっ!」
萌菜がそう言いながら、あたしと亜未を見てにこっと笑いかけてくる。
いや。急に巻き込まないで欲しいんだけど。無言で白けた表情を返したけれど、冴島大輔のことしか眼中にない萌菜はあたしがどんな顔をしていようがお構いなしだ。
「へぇ」
亜未たあたしのことを見定めるように軽く目を細めた冴島大輔が、にこっと笑う。
その笑顔は全く「先生」のそれではなくて、街で女の子をナンパするときのチャラチャラとした「大学生」のそれだった。
「よかったら教育実習が終わったあとも気軽に連絡とかしてよ。あとで5組の後ろの黒板にも連絡先書いとくし」
冴島大輔が軽い口調でそう言って笑う。
「え? いいんですか?」
さっきまで萌菜の態度を不満そうに見ていた亜未が、彼に話しかけられた途端、ころりと態度を変えた。