「紗幸希、これ受ける?」

高校生活最後の夏休みが始まる一週間前。

うだるような暑さに体力を奪われてぐったりとしているあたしに、亜未が話しかけてきた。

「ん、何?」

気だるそうに顔を上げると、亜未が苦笑いを浮かべながらA4サイズの紙を一枚差し出してきた。

「学校の夏期講習。予備校のもあるし、紗幸希はどうするのかなぁって」
「英語は受けてもいいかな。数学はパス」

あたしは亜未に見せられた紙を眺めながら、ぼそりとそう答えた。

紙にはそれぞれの科目の担当教師名が書いてある。

文系クラスの数学担当は冴島先生になっていた。

夏休みまで、彼の顔を見たくない。

「え? あたしは受けるなら数学なんだけどな。紗幸希も一緒に受けようよ」
「いいよ、一人で受けなよ」

差し出された紙を亜未のほうへ押しやりながら素っ気なく答えたとき、たまたま傍を通りかかった涼太があたし達の会話に首を突っ込んできた。