冴島先生はあたしのことなんて気にしていないみたいだし。このまま黙って乗り過ごしてしまえばいいや。
ホームにつっ立ったままドアが閉まるのを待っていると、涼太が不思議そうに首を傾げたあたしの背中を軽く押した。
「サユ、乗んないの? 帰り、遅くなるぞ」
「あぁ、うん」
ドアの開閉を知らせるベルが、ホームに鳴り響く。
「あ、ほら。ドア閉まる」
笑顔の涼太にもう一度背中を押されて、なんとなく電車に乗り込まないわけにもいかなくなった。
渋々乗り込んでドアのそばに立つと、入り口近くで吊り革を持って立っていた冴島先生が、視線を下に落としながら楽しげに笑った。
「宮坂って、ほんと気が利かねーな。もうちょっと涼太と一緒にいたいなー、とか。そういうこと言えば木瀬が喜んだんじゃない?」
「なんですか、それ?」
怪訝な声で訊ねると、彼がすっと視線を上げる。
「だって、宮坂は俺と二人で電車に乗るのが嫌だったんだろ?」
うっすらと笑みを浮かべている口許。あたしを見つめる切れ長の目。
あたしみたいな子どもの心の中なんて、簡単に見透かせる。冴島先生は、いつもそういう目をしてる。
あたしはそれが、たまらなく嫌だった。