「大ちゃんちってどっち方面?」
「あっち」

涼太の質問に答えて冴島先生が上り方面に向かう電車を指差したとき、思わず顔が引き攣った。不運なことに、向かう方角があたしと同じだったのだ。

「じゃぁサユと一緒だな。俺だけ逆方向だ」

涼太が残念そうに唇を尖らせる。

だけどあたしは、一人だけ逆方向に帰れる涼太のことが心底羨ましかった。

冴島先生と二人で同じ方向へ向かう電車に乗るなんて絶対嫌だ。それが、たとえ一駅だったとしても。

適当に用事を作って、冴島先生とは乗る時間帯をズラそう。

頭の中で冴島先生を避ける理由をいろいろと考えていると、先にあたし達が乗る電車がやってきた。

「じゃぁな、木瀬」

ホームに入ってきた電車のドアが、目の前でゆっくりと開く。

冴島先生は涼太に手を振ると、あたしのことはちらりとも見ずに一人で電車に乗り込んだ。