「里見。お前らの班のできばえはどうよ?」
冴島大輔が、スーツのポケットに片手を突っ込みながらあたし達の班に近づいてくる。
里見萌菜の隣に立った彼が、あたし達の班のテーブルを無遠慮に覗き込んできた。
「あ。大ちゃん!」
冴島大輔がそばに来た瞬間、萌菜の声がツートーンくらい上がる。
「もうね、最高にうまくできてるよ。大ちゃん、あたし達の班のやつ試食していきなよ」
そう言いながら、萌菜が計算なのかどうなのか……冴島大輔の腕をぎゅっとつかまえる。
「へぇ、もうできあがんの?」
冴島大輔の腕をつかんだ萌菜は、彼のことをなかなか離そうとはしなかった。
最初は調理実習の話をしていたのに、そのうち全く関係ないことを話し出し、その間にグラタンが焼きあがる。
冴島大輔に夢中になっている萌菜が少しも働かないから、仕方なくあたしと亜未、それから同じ班の男子ふたりで試食の準備を始めた。
オーブンから取り出したグラタンから上がる湯気で、調理実習室の温度が高くなる。
「暑いね」
亜未と顔を見合わせて眉を寄せていると、冴島大輔が焼きたてのグラタンを見て「うわ。うまそう」とつぶやいた。