学校から続く急な坂道を下って一戸建ての連なる住宅街を抜けると、電車の駅が見えてきた。

歩きながらパスケースを探して鞄の中を引っ掻き回していたあたしは、改札の前で立ち止まる。

「あ、学校に定期忘れてきたかも……」

いつも鞄の小さな内ポケットの中にパスケースを入れているのだが、それがどうも見当たらない。

「足りないなら、交通費貸そうか?」

困っていると、上原くんが鞄の中から自分の財布を取り出した。

「うぅん、いい。お金は一応あるんだけど……明日のことも考えたらもったいないし。学校に戻って探してみる」
「一緒に戻ろうか?そろそろ暗くなってきたし」

上原くんが、紺色に染まり始めた空を見上げる。

「ありがとう。でも、平気」

あたしは少し心配そうな上原くんを改札の向こうに押し込むと、学校へと引き返した。