「そりゃぁ覚えてるよ」
冴島先生があたしを見下ろしながら、口角を引き上げる。
その口から続けて「先生だから」と言う言葉が聞こえてきそうな気がして、あたしはうつむいてこっそり苦笑した。
冴島先生につれられて職員室に行ったあたしは、教職実習生の総括担当の先生と養護教諭の先生に挨拶をした。
挨拶を済ませて職員室を出ると、冴島先生があたしを待ってくれていた。
「終わったか?」
「はい、ありがとうございます」
冴島先生にお礼を言って、なんとなく彼と一緒に校舎を出る。
校門に向かって歩きながら、あたしは高校生のときに一度だけ、こんなふうに彼と並んで学校を出たときのことを思い出していた。
「冴島先生が他の学校に異動になってなくてよかったです」
会えたらいいなと、密かに期待していたから。
冴島先生の隣で呟くように言うと、彼が意外そうな目であたしを見下ろした。
「何だよ、それ。ひさしぶりに会ったら、少しは可愛げのある嘘がつけるようになってんじゃん」
冴島先生が意地悪な声でそう言って、笑う。