「で、何教えんの?」
「教科担当じゃなくて、養護教諭なんです」
「そういや、お前の進学先って教育学部じゃなくて心理学とかそういう系だったよな。昔教えてくれなかった目標って、そうだったんだ?」
「はい、まぁ」
あたしの進路、ちゃんと覚えててくれたんだ……意外だけど、少し嬉しい。
高校3年生の夏休み頃まで、大学に入れたらどこでもいいと思っていたあたしが進学を決めたのは、地元の大学の心理学部だった。
そこに入って養護教諭になろうと決めたのは、中学のときに仲間から外された経験と、冴島先生の存在があったから。
冴島先生はいい加減なフリをしているくせに、捻くれもので可愛くない生徒だったあたしのことをちゃんと見てくれていて。だからあたしも、先生みたいに誰かの背中をちょっとだけ押してあげられるような、そんな存在になれたらいいと思った。
「ふぅん」
冴島先生があたしの顔をしげしげと眺めて、それから最後ににやっと笑う。
「あ、挨拶するならこっち。一応、ついてってやろうか?」
冴島先生が教職員用の出入り口を指差す。
あたしが頷くと、彼がドアを開けて来客用のスリッパを出してくれた。
「武田とか木瀬は? 元気?」
パンプスを揃えて脱いで、用意されたスリッパに足を通していると、冴島先生が少し高い位置から問いかけてきた。
「はい、元気ですよ」
「そっか。あいつらに会ったら言っとけよ。遊びに来るとか言っといて全然来ねぇな、って」
「そういえば卒業式の日にそんな話してたけど、よく覚えてますね」