しばらく立ち尽くしたままその一本の低木を見つめていると、校庭から吹く風が、ショートヘアになったあたしの髪を揺らした。

急勾配を登って少し汗をかいていたから、首筋を滑っていく風の温度が心地いい。

つい1週間ほど前。あたしは背中まで伸ばしていた髪をばっさりと切った。

相変わらず金にちかい茶色の髪をしたあいつは、あたしの長い髪に鋏をいれながら「ほんとに切るの? もったいない」とぶつぶつ文句を言っていた。

そのくせ、「まぁ、絶対可愛くできるけど」とやけに自信たっぷりに言うからよくわからない。

風が通り過ぎるのを待ってから、吹き乱された髪を手ぐしで整えて、低木から校舎へと視線を戻す。

改めて校舎を見上げると、今度は懐かしさよりも緊張感が高まってきた。

パンプスのつま先で地面を蹴って一歩前へと進む。

そのとき、教職員用の出入り口から誰かが出てきた。

はっとして足を止めると、その人物があたしに気づいて首を傾げる。

「どうかされましたか?」

スーツ姿のあたしを、来客だと思ったらしい。

その人が丁寧な言葉をかけてくるから、あたしは数歩前に進み出てぺこりと頭を下げた。