「宮坂。お前、次の問題、前で解け」

冴島先生が指定してきたのは、予習するときに難しくて飛ばした問題だった。

最悪。

顔をしかめながら仕方なく前に出ると、冴島先生が無表情で白のチョークを渡してきた。それを素っ気なく受け取って、黒板にぎゅっと押し当てる。

だけどそうしたところで解答が思い浮かぶはずもなく。あたしはただ途方にくれていた。

「サユ?」

隣で黒板に答えを書いていた涼太が、黒板と睨めっこしているあたしの横顔をちらっと見てくる。

あたしのノートが真っ白なことに気付くと、涼太が自分のノートをさりげなくこちらに傾けてきた。

「サユ。この問題、今俺がやってるやつの応用。俺が書いてる公式に、この問題の数字を当てはめてやってみな」

冴島先生に気付かれないように、涼太が小声で教えてくれる。

涼太は授業中ほとんど寝ていていい加減なのに、なぜか1年のときから数学の成績が良い。それが癪に障る。

「今、それ使ってやろうと思ってた」

全然わかっていなかったくせに、あたしは小声で涼太に言い返した。

手を動かし始めたあたしの横顔を見て、涼太が苦笑いする。

涼太には強がりだとバレていただろうけど、あたしはそれを認めたくなかった。