《バレンタインの返し。それから、卒業おめでとう》

メモに書かれていたのは、そんな短い文章。だけどそれは、冴島先生の字だった。

どうしてあたしにこれを……

そのときふと、卒業式のあと周りに群がる女子生徒に冴島先生が言っていた言葉が脳裏に蘇った。

『俺はホワイトデーは本命にしか返さない主義なの!』

冴島先生は確か、そんなふうに言ってなかったっけ。

銀木犀の花を見て先生が思い出すのは、あの女の人でしょう。それなのに、どうして……

階段の上から最後にあたしに笑いかけた冴島先生の顔。それを思い出すと、心の奥が痺れたように震えて胸が苦しくなる。

ねぇ、先生。あたしはこれをどんなふうに受け止めたらいいですか……?

先生、あたしは……

冴島先生のメッセージが書かれたメモ用紙を折れ曲がりそうなくらいぎゅっと握りしめる。

気づくと知らない間に涙が溢れていて。零れたひとしずくが、メモ用紙に落ちて、冴島先生の文字を滲ませた。