だから……

冴島先生の姿が視界から消えた瞬間。このまま何も言わずに帰るのはダメな気がした。

「みんな先に下に降りてて。あたし、ちょっと忘れ物!」

階段を降りかけている亜未達の背中に向かって大きな声で叫ぶと、あたしは冴島先生が去って行った方へと駆け出した。

卒業式が終わった学校は、まだ日中なのにひっそりと静かだ。

自分の足音が廊下にやけに響くのを感じながら、屋上へ続く階段まで駆ける。

薄暗いその階段の前で立ち止まって見上げたとき、まだ階段の中程までしか上っていなかった冴島先生が振り返った。

「宮坂。お前、帰ったんじゃなかったか?」

冴島先生があたしを見下ろして、驚いたように目を瞠る。

「そうだけど、一言だけ伝えたくて……」
「一言?」

肩で息を整えていると、冴島先生がゆっくりとした足取りで階段を降りてきてくれた。