「そろそろ行っていいか?」
長い時間あたし達の雑談に引き止められた冴島先生が、煙草の箱の角を軽く手の平に打ちつける。
「あ、そっか。あたし達、引き止めすぎだよね」
「大ちゃん、短い間だったけどお世話になりました」
涼太が調子のいい声でそう言って頭をさげる。
それにつられてあたしと亜未、それから上原くんも小さくおじぎした。
「おー、元気でな」
冴島先生が軽く右手を振り上げて、あたし達の前から去って行く。
「じゃぁ、俺らも行こっか」
冴島先生があたし達の前からいなくなると、涼太も亜未も上原くんもさっさと昇降口に向かって歩き始めた。
だけどあたしはどうしてもその場を去りがたくて、冴島先生が歩いていった方を振り返ってしまう。
いつもの場所で一服するつもりらしい彼の後ろ姿が、廊下の角を曲がって消える。