もっと楽に、嫌いになりたい。そう思っているのに、あたしは涼太のことを完全には嫌いになれない。

亜未の涼太への気持ちを知っているのに。

「木瀬。お前、俺の授業で堂々と寝るんじゃねぇよ」

黒板に背を向けて問題解説をしていた冴島先生が、気持ち良さそうに寝こけている涼太の頭を丸めた問題集で軽く小突く。

「いて。大ちゃん、体罰はダメだって」
「寝てたくせに、ふざけんな。木瀬、お前が次の問題解けよ」

冴島先生が呆れ顔で涼太を見下ろしながら、白いチョークを差し出す。

「えぇ」

涼太はぶつぶつと文句を言いながらも立ち上がると、自分の問題集を持って黒板の前に立った。

「それで、次の問題を……」

冴島先生が教室内に視線を泳がす。あたらないように下を向こうとしたら、タイミング悪く目が合った。