余裕があれば、涼太とのことを気にかけてくれたことや、放課後数学の問題を教えてもらったことのお礼を言いたかったけど……
あんなふうにたくさんの女子に囲まれている冴島先生に近づくのは無理かもしれない。
それにしても。写真をせがむ女の子達の前で、彼はどんな表情を浮かべているのだろう。
いい加減そうだから、女子達を前にヘラヘラしてるのかな。
そう思ったけど、女子生徒達の群れの中で頭ひとつ分以上抜け出ている冴島先生は、あたしの予想に反して気だるそうな顔をしていた。
「あー、もう、キリがないからいいだろ。俺も職員室に戻んないと。お前らも、最後に教室で担任からの別れの挨拶があるだろ」
冴島先生に促され、彼に群がっていた女子達が渋々といった様子で散り散りになる。
女子生徒達が離れていくと、冴島先生は疲れた様子でため息をついた。
群がっていた女子のほとんどは冴島先生から離れていったけれど、それでもまだ残っていた数人の女子が職員室に向かおうする彼にぴたっとついて歩く。
「ねぇねぇ、大ちゃん。今日ホワイトデーだよ。あたしがあげたバレンタインのお返しとかないの?」
「あ、あたしもあげたよ。ないのー?」
冴島先生に纏わりついて歩く数人の女子達が、甘えるような声で彼に話しかける。
彼女達は萌菜のように、結構本気で冴島先生に好意を抱いているのかもしれない。