「義理ですからね」

小箱を見つめる冴島先生に向かってもう一度言うと、その言葉だけが、言い訳みたいに静かに響いた。

「あー、わかってるよ。日頃からすげー俺の世話になってるもんな、お前」

冴島先生がにやりといたずらっぽく笑い、それから小さな子どもにするみたいにあたしの頭をくしゃりと撫でる。、

「ちょ、やめてください」

撫でられた頭に手をやり、さほど乱れてはいない髪を整える。

不機嫌な声で文句を言いながらも、冴島先生から受けた行為に動揺を隠せない。

心の奥が揺さぶられて、言葉にするのが難しい、変な気持ちになる。

そんなあたしの心の内に気づいているのかどうなのか。唇の端を引きあげる冴島先生の顔が、ちょっと嫌味なくらい余裕そうに見えた。

「で? 宮坂の今日の用事は以上?」

冴島先生が、渡した小箱をあたしに見せながら訊ねてくる。