自分で呼び止めたくせに、あたしは冴島先生に伝えるべき言葉を全く用意していなかった。
ちょっと、衝動的過ぎたかもしれない。鞄に入れてあるもののことを考えながら迷っていると、冴島先生が不思議そうな目であたしのことをジッと見てきた。
「どうかしたか? 時間なくなるぞ。お前、毎回大量に質問持ってくるじゃん」
冴島先生にからかい口調で笑われて、左右に小さく首を振る。
「宮坂?」
「違うんです。今日は質問じゃなくて……」
思いきって鞄の中に手を突っ込むと、そこから金色のリボンがかかった小箱を取り出す。
それから冴島先生に一歩近付くと、横を向きながら、手にした小箱を彼に突きつけた。
「これ……」
「ん?」
あたしが差し出した小箱を、冴島先生が受け取る。
その瞬間、ほっとして腕から力が抜けた。
「これってもしかして、バレンタインデー?」
視線をあげると、冴島先生が意地悪な目をしてにやけている。