「えー。大ちゃん、来るの早くない?」
「もっと遅刻してきてよ」
廊下にいた涼太達が、けらけら笑いながら冴島先生に絡む。
「なんでだよ。くだらねぇこと言ってないで、とっとと教室入れ」
「なんか大ちゃん、『先生』になってから真面目じゃん。実習生のときはもっと緩かったくせに」
「は? 俺はいつだって真面目なんだよ。言うこと聞かねぇやつは、成績やらねーぞ」
「うわ、横暴」
「権限だよ、権限」
冴島先生が冗談交じりにそう言いながら、涼太達を教室の中に押し込む。
なんだかんだ言っても結局のところ冴島先生に好感を持っている涼太達は、笑いながらそれぞれ自分の席に着いた。
「じゃぁ、授業始めるぞ」
教壇に立った冴島先生が、クラスを見回して問題集を開く。
冴島先生が担当する数学Ⅱの内容を、あたし達は高校2年生までに全部終わらせている。
3年生になってからの文系クラスの数学の授業は、受験に向けてひたすら練習問題をこなすというものだった。