「紗幸希」

職員室を出ると、なぜか亜未が入り口の前に立っていた。

亜未に話しかけられるのはひさしぶりのことで、無意識のうちに表情が強張る。

「そんな微妙な顔しないでよ」

亜未に苦笑いされ、あたしは堅い表情のままなんとか無理やり口角を引き上げた。

どう見ても不自然でしかない笑を浮かべるあたしを見て、亜未が小さく息をつく。

亜未は髪の毛の先に人差し指を絡めてしばらく弄んだあと、少しバツが悪そうに笑った。

「あの、さ。紗幸希、今日少しだけ時間ある?」
「ある、けど……」

なんだろう。不安に思いながらもそう答えると、亜未がほっとしたように頬を緩めた。