「そっか……いきなりごめん」
あたしが小さく首を横に振ると、萌菜は頬にかかる髪をかきあげながら苦笑いした。
「昨日のこと、見てたんだよね?」
あたしは苦い顔で笑う萌菜を見つめると、少し迷った後に遠慮がちに頷いた。
「引いた?」
「まさか、だって萌菜は……」
冴島先生がまだ教育実習生のときから、彼のことが好きだったんだよね?
はっきりと確かめるのは躊躇われて、言葉を濁す。
だけど全てを口に出さなくても、萌菜にはあたしが何を言おうとしたかちゃんと伝わっているみたいだった。
「あたし、大ちゃんは今でもお姉ちゃんが好きなんだと思ってたから……昨日紗幸希のことを慌てて追いかけていく大ちゃんを見て、何か焦った」
お姉ちゃん────……
そういえば萌菜は昨日、冴島先生の前でも「お姉ちゃん」という言葉を口にしていた。