「あいつ……里見。実は昔の知り合いの妹で。さっきのに別に深い意味はなくて」

落ち着きなく前髪をかきあげる冴島先生は、あたしを前にして少し焦っているようだった。

冴島先生にその気はなかったとしても、生徒にあんなところを見られたらまずいんだろう。

「大丈夫ですよ。あたし、口堅いですから。誰にも言いません」

本当に誰にも言うつもりはないけれど、やっぱりまだ動揺が消えない。

上ずった声のままでそう答えると、冴島先生があたしを見つめながら片眉を垂れた。

「それは、わかってんだけど……」
「だったら、どうしてわざわざ追いかけてきたんですか?」

そんなに必死になって。

あたしが首を傾げると、冴島先生は片眉を垂れたまま困惑気味に首を傾げた。

「いや、別に。何でだろう」

冴島先生がつかんでいたあたしの肩から手を離し、自嘲気味に笑う。

「俺もよくわかんないんだけど……もし宮坂に変な誤解されてたら困るな、とか思って」
「変な誤解……?」
「悪い、何でもない。引き止めて悪かったな。気をつけて帰れよ」

冴島先生が唇の端を歪めて薄く笑う。