昇降口まで駆けてきても、あたしの足はまだ少し震えていた。

足元に落としたローファーに、何とかつま先を突っ込む。そのまま急いで学校から出てしまおうと再び駆け出したとき、後ろから誰かに肩をつかまれた。

「宮坂。今日、質問は?」

頭よりも少し高い位置から、低い声が聞こえる。

振り返ると、冴島先生が乱れた呼吸を懸命に肩で整えていた。

肩に置かれた冴島先生の手は熱くて、あたしを追いかけて走ってきたのだとわかる。

「いえ、あの。今日は気分が乗らないから帰ろうかと思ってて……」

さっきは、萌菜が一方的に冴島先生に抱きついたという感じだった。けれどそれでも、きっと見てはいけないものを見てしまった。

心臓がドキドキとなって、声が上ずる。

「宮坂、あれはその。違うっていうか」

動揺するあたしを見て、冴島先生が何を思ったのかはよくわからない。

彼は目にかかる前髪を煩わしそうにかきあげると、まるであたしに言い訳でもするみたいに言った。