ふと小さな疑問を感じて首を傾げたとき、萌菜が冴島先生の胸に抱きついた。

「おい、ちょっと。里見……!」

困惑している冴島先生を無視して、萌菜が彼の首の後ろに両腕を回す。

冴島先生に抱きついて、踵を上げて背伸びした萌菜は、今にでも彼にキスをしそうだった。

ど、どうしよう……

心臓がドドドドっと今までにないくらいのすごい速さで動いているのがわかる。

とりあえず、この場から立ち去らないと。

床に張り付いて動かない足を必死に持ち上げたとき、萌菜に抱きつかれている冴島先生が階段の下にいるあたしに気がついた。

ちらりと向けられた視線に、激しく動揺する。

早く立ち去らないと……

逃げ出そうと踵を返しかけたあたしの視界の端で、冴島先生の唇が動く。

気のせいかもしれないけどその唇が「宮坂」とあたしの名前を呼んだような気がした。

けれど、そんなこと確かめている余裕なんて一秒もない。

あたしは震える足で何とか階段を下りると、昇降口に向かって一目散に駆けだした。