「大ちゃん、ほんとはずっと前から気づいてるでしょ」
冴島先生に向き合って立つ萌菜は、少し興奮した様子で一方的に何か話している。
盗み聞きしたいわけじゃないのに、あたしの耳は無意識に研ぎ澄まされていた。
「大ちゃんが正式にここで働き始めてからは、意識して『冴島先生』なんて呼ぶようにしてたけど……あたし、大ちゃんのことが好き」
萌菜のその言葉が聞こえた瞬間、あたしの鼓動が大きく跳ねる。
萌菜が冴島先生を恋愛対象として好きなことは、彼が教育実習生としてこの学校に来ていたときから気づいてはいたけれど。こんなところで告白なんて……
そのまま見なかったフリ、聞かなかったフリをして階段を静かに降りればいいのに、なぜかあたしの足はその場に根が張ったみたいに動けなくなってしまった。
「里見の気持ちはありがたいけど……」
困ったような冴島先生の声が聞こえる。
「ねぇ、大ちゃん。あたしは今『冴島先生』の生徒の『里見』じゃなくて、萌菜として大ちゃんに好きって言ってる。あたしは、お姉ちゃんとは違うよ?」
お姉ちゃん────?