その時間はきっと一瞬だったのだと思うけれど、あたしにはとても長く感じられた。
あたしの長い髪が、突然吹き荒れた冷たい秋の風に流されて揺れる。それを合図に、また時が動き出す。
「似合わない」
口にかかった髪の毛の先を指で払いのけながら、冴島先生から視線を逸らす。そうしたら、彼が小さく鼻で笑った。
「だよな」
風に乗ってまた、銀木犀の上品な甘い香りがほんのり漂ってくる。
その香りを深く吸い込みながら、あたしは彼に訊ねた。
「銀木犀の名前と花言葉。それを教えてくれたのってもしかして、この前話してくれた先生の『先生』ですか?」
そう訊ねながらあたしが思い出したのは、2年前の雪の日に彼と一緒にいた哀しそうな顔の綺麗な女の人のことだった。
片眉を下げながら苦笑いを浮かべた冴島先生が、少し間を空けて、「そう」と呟くように頷く。
「そうですか」
それなら、少し似合うかも……
あたしは甘い香りを漂わせる銀木犀の木に視線を向けると、呟くように言葉を返した。