「後悔……あれから考えてみたけど、あたしにはまだよくわからなくて。だからせめて受験では後悔しないように、目標をちゃんとたてることにしました。数学、教えてもらってもいいですか?」
「へぇ。目標できたんだ?」

冴島先生が、あたしの手から数学の問題集を受け取りながら訊ねてくる。

「一応。でも、まだ少し迷ってて。なので、詳しくは秘密です」

冴島先生はしばらくあたしの顔をじっと見たあと、口元を緩めながら「ふぅん」と頷いた。

わからなかった問題を一通り教えてもらって顔を上げたとき、職員室にはもうほとんど人気がなくなっていた。

「ありがとうございました」

あたしのために結構な時間を割いてくれた冴島先生にお礼を言うと、唇の端を軽く引き上げた彼が「どういたしまして」と笑う。それから腕を伸ばして、つけっぱなしになっていたノートパソコンの電源を切った。