そのあともあたしが立ち去らずにいると、冴島先生が怪訝そうに首を傾げた。

「ん? まだ何かあんの?」
「えっと……」

あたしは少し躊躇ったあと、鞄から数学の問題集を取り出した。

「あの、数学の問題聞いてもいいですか?」

遠慮がちに訊ねると、冴島先生があたしを見て数回目を瞬かせた。

「何、急に? お前わりと勉強熱心なわりに、俺のとこにだけは絶対質問にこねぇじゃん。俺のこと毛嫌いしてたんじゃねぇの?」

机に片肘をついた冴島先生が、口角を引き上げてちょっと意地悪く笑う。

「それは教育実習でやってきた冴島先生が、あの雪の日のイメージと全く違ったからで……」

教育実習生としてやってきた冴島先生の印象は、チャラくて軽そうで。今年の新任教師としてあたし達のクラスの副担任になったときも、いい加減そうで大学生っぽい雰囲気がどこか抜けていなくて。

その印象が、2年前の冬の日に公園で見た男の人のイメージからあまりにかけ離れていたから、あたしは勝手に彼に失望していたのだ。

だけど────……