亜未や涼太と気まずい沈黙が続いたままのある日の放課後。あたしは不意に思い立って、職員室に顔を出した。
あたしが放課後に職員室を訪れるときは、だいたいが担任の柴崎先生に英語の問題の質問をするためだった。
だけど、その日の目的は少し違った。
小さな声で「失礼します」と呟くと、窓際奥の席でノートパソコンの画面をじっと睨んでいる若い男の先生に真っ直ぐに歩み寄る。
「冴島先生」
呼びかけると、彼が眉間の皺を解きながら顔を上げる。
けれど、そこにあたしの姿を見つけると、訝しげにまた眉を顰めた。
「あの、こないだは迷惑かけてすみませんでした」
「こないだ?」
軽く頭を下げると、冴島先生がきょとんとした表情になる。
「あの、保健室の……」
「あぁ。宮坂がわざわざそんなことのためだけに俺のとこに来るなんて珍しいな。そんなん、もう忘れてたし。気にすることねぇのに」
冴島先生が、あたしを見てクッと小さく笑う。