あたしはもっと彼との距離を詰めると、思いきってその背中をトンッと叩いた。
「あの、すいません!」
大きな声で呼びかけると、ようやく立ち止まった彼がゆっくりと振り返る。
「あの、これ」
握り締めていた小箱をすっと前に突き出すと、彼は何も言わずにただ大きく目を見開いた。
「これ、忘れてます」
そう言うと、彼はほんの少し口角を引き上げて淋しそうに笑った。
「いや。それ、俺のものじゃないから」
「そう、ですか……」
彼に向かって小箱を突き出していたあたしの手が、どうすればいいかわからずに宙に留まる。
困っていると、彼があたしの手から小箱を取り上げた。
「俺のじゃないし、その辺に置いといてくれていいよ。それか、君にあげよっか?」
「どうして? それは大切な人にあげようと思っていたものでしょう?」
あたしの言葉を聞いた彼が、唇を歪めて苦笑いする。