彼の手が力なく落ちると、彼女が少しずつ後ずさって、やがて彼に背を向ける。
あたしが立っているのとは別の公園の出入り口に向かって足早に歩いていく彼女の背中を、彼はただ絶望的な眼差しで見つめるばかりで、追いかけようとはしない。
彼はまるで世界が終わったような目をして、去って行く彼女をじっと見つめ続けていた。
ふたりに、いったい何があったんだろう……
さっき見かけた彼は、とても幸せそうに口元に笑みを浮かべていたはずなのに。
偶然その場に居合わせてしまったあたしは、公園の入り口に一歩足を踏み入れたまま、そこから前進することも後退することもできなかった。
動くことができないあたしの前で、彼女を見送った彼がコートのポケットから何か取り出す。
彼が取り出したのは、あたしがさっき見たプレゼントらしき小箱だった。
手の平にのせた小箱をしばらくじっと見つめたあと、彼がそれを白いベンチの上にそっと置く。
それから、あたしが立ち止まっている公園の入り口の方にゆっくりと歩いてきた。