その日は、その冬一番といってもいいくらい、特別に寒かった。
駅の向こうまでお遣いを頼まれたあたしは、いつものように自宅の近くの公園を抜けて、駅へと歩いていた。
家を出てから10分も経たないうちに、冷たい外気に触れた頬や耳が凍りつきそうになる。
あたしは手袋を嵌めた手で少しだけマフラーの首元を緩めると、そこにできた小さな隙間に鼻先を埋めた。
「さむ」
少しでも寒さを紛らわすことができないだろうかと視線を横に動かすと、公園の隅にある白いベンチに男の人が一人で座っているのが見えた。
分厚い灰色の雲で覆われた空はほどほどに暗くて、ベンチの真上にある街灯が小さなスポットライトみたいにそこに座る男の人を煌々と照らしている。
その街灯の光が、男の人が吐く白くて長い息をきらきらと輝かせていた。
こんなに寒いのに、一人で何をしているんだろう。