冴島先生の優しい穏やかな笑みが、ようやくあの寒い冬の日のイメージと重なる。
穏やかに笑む彼の口から細く漏れる白い息。絶望したような目をして、それでも『ありがとう』と伝えてくれた。あのときの。
「今話してくれた高校時代の古典の先生って、冴島先生が好きだった人ですか?」
気付くとあたしは、冴島先生にそんなことを訊ねていた。
冴島先生はすぐに答えを返さず、ほんの少し目を細めてあたしの顔を窺う。
「2年前の寒い冬の日。粉雪の降る公園で一緒にいた……」
白いベンチの前。哀しそうな目をしたショートヘアの女の人のそばにいた、横顔の綺麗な男の人。
全てに絶望した顔で、金色のリボンがかかった小さな箱をベンチに置いて行ったのは……
あれは、冴島先生ですよね────?
「あー、あれ。あのときの高校生」
全てを言葉にしなくても、あたしが言いたいことは彼に伝わっているみたいだった。
「やっぱ、宮坂だったんだ?」
目を細めてあたしの顔を確かめるようにじっと見たあと、冴島先生が口元を歪めて小さく苦笑いする。