「絶対誰にも言うなよ、恥ずかしいから」
あたしをじっと見つめる冴島先生の瞳に、身体の奥の方がほんの少し揺さぶられるような感覚がした。
「別に、言いませんけど」
妙に落ち着かない感情を抑えながら、無愛想な声でそう答える。
「まぁ、別に大した話でもないんだけど」
冴島先生は苦笑いを浮かべながら首筋を掻くと、床に視線を落とした。
「俺が高3のとき、新しい国語の先生がよそから赴任してきたんだよ。先生になって2年目くらいだったと思うんだけど。髪は割と明るめの茶色だし、小さいけどピアス開けてるし、一応きちんとした格好はしてるんだけどいつもスカート短めだし。それまでいたほかの先生と全然雰囲気が違うやつでさ。おまけに美人で若いから、生徒達の好奇心の的」
冴島先生が床に視線を落としたまま、当時を思い出すようにクッと笑う。
「男子生徒のほとんどが女としてその先生にかなり興味津々だったと思うけど、性格がさばさばしてて明るいから、高校生のガキなんて全然相手にされねぇの。それでもっと面白かったのが、全然先生っぽくない風貌してるくせに、授業するときはすげぇ熱心なんだよ。どうも古典が専門だったっぽくて、チャイムが鳴って授業終わってるのなんて気にせずに、毎回古典の物語の歴史的背景まですっごい熱く語ったりして」
冴島先生は口許を抑えてしばらくククッと楽しげに笑い続けたあと、あたしを見てにやりとした。