「なんとなく、来てみただけです」
「もう帰れんの?」
「帰ります」

小さく頷くと、冴島先生が階段を降りてくる。

「そっか。じゃぁ、俺もぼちぼち帰る準備しよ」
「同じ駅みたいですけど、一緒には帰りませんからね」

隣に並んだ冴島先生を警戒するように見ると、彼のほうも迷惑そうにあたしを見てきた。

「何でお前と一緒に帰らないといけねぇんだよ。今日は鍵閉めじゃねぇしほんとならもっと早く帰れたのに、お前がなかなか保健室から出てこねぇからだろうが。お前一人のために柴崎先生に残ってもらうのも悪いだろ」
「もしかして、あたしのために残ってくれてたってことですか?」

驚いて目を見開くと、冴島先生が面倒くさそうにため息をついた。

「そりゃぁお前、先生だしな」

『先生だし』と自分で言ってしまうところが、どうなの……

やっぱりそう思ったけど、今は不思議と、冴島先生と顔を合わす度に感じていた不快さを感じなかった。

保健室での涼太の一件があったからかもしれない。