「どうかしたか?」
「あの、柴崎先生か冴島先生は……」
「あぁ、柴崎先生ならついさっき帰ったよ。冴島先生はまだどっかにいると思うけど。用事があるなら、伝言しとこうか?」

隣のクラスの担任に言われて、少し迷う。

けれど、ふとあることに思い当たって、あたしは小さく首を横に振った。

隣のクラス担任に頭を下げて職員室を出ると、ほとんど迷うことなく屋上に繋がる階段へと向かう。

薄暗くてほんの少し埃っぽい階段を上がっていくと、屋上の扉に直接繋がる階段の手摺に凭れかかる黒髪の後ろ姿があった。

その手元で、燻る煙草の煙が見える。

「職員室にいるって言ってましたよね? 冴島先生」

不躾にその後ろ姿を見上げて嫌味な声を出すと、その人がゆっくりと首だけ動かして振り返った。

「あぁ、宮坂か。よくわかったな」

手に持っていた小さな灰皿で煙草の火を消した冴島先生が、あたしを見下ろしてにやりと笑う。