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中学3年の春。
あたしは当時仲がよかった女友達3人と、放課後の教室に残っておしゃべりをしていた。
「ねぇ、みんなクラスに好きな人いる?」
空が紺色に染まり始め、そろそろ帰ろうかという雰囲気になったとき、そのうちの一人が両手を口元にあてながら恥ずかしそうにそう切り出してきた。
彼女はあたし達のグループのまとめ役みたいな存在で、ミワという名前だった。
「どうしたの、急に? ミワ、クラスに好きな人いるの?」
一旦は立ち上がりかけたあたし達だけれど、ミワの言葉に全員がきらりと目を輝かせる。
ミワはしばらく恥ずかしそうに口ごもったあと、頬と耳を真っ赤にさせた。
「実はね、最近ちょっと香川くんのことが気になってるんだ」
ミワが気になるといった香川くんは、クラスでも一番目立つグループにいる男子だった。
運動ができて笑顔が爽やかという印象があったけど、あたしは特に意識もしたことのない男子。
ミワから彼が気になっているという話を聞いたときは、「ふぅん、そうなんだ」と思っただけだった。