「紗幸希はあたしに同情してたの? 自分は涼太に好かれてるから。それでもバカみたいに涼太が好きだって言い続けてるあたしがかわいそうだと思ってた?」
「違────」

顔を上げると、亜未が今にも泣き出しそうな顔をしてあたしを睨んでいた。

睨みながら、亜未が悔しそうにきゅっと唇を噛み締める。

「亜未、違うよ。あたしは────」

あたしの弁明を拒否するように、亜未が左右に大きく首を振る。

「だったら、最低だよ」

亜未は喉の奥から振り絞るような声でそう言うと、あたしの肩を軽く突き飛ばすようにしてその場から走り去った。

「亜未!」

亜未の背中を追いかけようと足を踏み出した瞬間、あたしの頭の中でもう忘れようとしていた声が響いた。

『裏切り者!!』

その声が、もう消し去ろうとしていた記憶を呼び覚ます。

突然ひどい頭痛と眩暈に襲われて、あたしはその場に蹲った。

早く、消えて。

心の中で叫びながら、頭で響き続ける声と記憶を懸命に追い出す。

ようやく頭痛と眩暈が治まったときには、亜未の姿はもうとっくに見えなくなっていた。