亜未に笑顔で話しかけられて、あたしはさっきの涼太とのやり取りを思い出した。

教室の端から端へと視線を巡らせたけれど、涼太の姿はない。

そのことにほっとしつつ、何も知らずに目の前で笑っている亜未に対して少しだけ罪悪感を覚える。

「ごめん、ちょっと途中で他の用事ができちゃって……」
「そうなんだ」

亜未は小さく頷くと、辺りをちらちらと窺うように視線を動かしてから、あたしの耳元に顔を近づけてきた。

それから恥ずかしそうな声で、そっとあたしに耳打ちをする。

「今日、このあと文化祭の打ち上げあるでしょ。あたし、そのとき涼太に気持ち伝えようと思う」

亜未からの突然の告白に、胸がドキリとする。

「今日、言うの?」

亜未に訊ね返したあたしの声は、ほんの少しだけ震えていた。

でもそれは本当に僅かな震えで、亜未はあたしの動揺になんて全く気付かない。